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日記だったり、ネタだったり、備忘録だったり。 若鶏のからあげ先生が日常をユーモラスに描きます。
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「お父さんと、こうやって手を繋ぐの、久し振りだね」

優子は横目で僕の顔を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

「そうだなあ、いつぶりだっけ?」

「ほら、あの時。高校の入学式で遅刻しそうになって。」

「その時以来か。懐かしいな。」

「うん。」

優子は少し笑うと、まっすぐに前を見た。

視線の先には駅。

今から僕達が向かう場所だ。




優子が小学生に入る前、妻は病気で死んだ。

僕は優子を親戚に家に預け、週末だけ会いに行っていた。

毎週、手をつないで公園に出かけていく。

穴を掘ったり、虫を探したり。

大きくなってからは友達のこと、先生のこと、

いっぱい話してくれた。

でも僕が帰るときには、わんわん泣いていたね。



そうだ優子、覚えてるか。

僕が、お風呂で歌った優子の歌。


「お父さんは優子のこといつも考えてる

 一日中優子のこと考えてる

 だけどお父さんはやっぱり少しバカで

 全然優子の気持ちなんてホラわからないみたい」


おたくな後輩がカラオケで歌っていた歌の替え歌だったけど

優子はすごく気に入ってくれてたね。

そして僕も本当は気に入っていたんだ。



歩きながらいろいろなことを思い出していた。

心ではいろいろと考えていても、言葉にはならない。

無言のまま、とうとう改札まで来てしまった。




今日、優子は東京に就職する。




「お父さん、ここでいいよ。」

「でも荷物があるから。ちょっと待ってて。」

慌てて入場券を買う。




今日が最後の別れじゃない。

就職で東京に行くだけだ。

けれど親として、何か言葉や、エールを贈らなければ。


だが妻に瓜二つの優子の顔を見ていると

「さよなら」以外の言葉が思いつかない。


「お父さん、さよならじゃないんだからね。」

はっとして優子を見る。優子には全てお見通しだ。




突然、電車のベルが鳴る。

優子の乗る電車が到着する。


「いくね。」

「優子、あの。」

「うん。」

「父さんが歌った、優子の歌、覚えてる?」

「うん、私も今その歌を思い出してたんだ。」

「そうか、じゃあ、寂しくなったらその歌を歌えよ。」

「そうする。お父さんも歌いなよ。その時はたぶん私も歌ってるから。」





「また。」

「うん。」




そして出発のベルが鳴った。




奏/スキマスイッチ













優子を見送ったあと僕は○○書店に向かった。

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プロフィール
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若鶏のからあげ
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男性
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料理
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時は来た!それだけだ!

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好きな食べ物から

ブログ名の由来:
僕の国という意味です。

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